1月15日

この日はやはり忘れられない。

今の私は

この日にすべてが始まったようなものです。

 

5時47分

最初のグラッの後

グラグラグラと20秒間ほど

地鳴りと共にゆれ続けた。

外では瓦の崩れる音、悲鳴、爆発音。

その時、止まったままの置時計が

大切に置いてある。

 

当時長女と長男がおり妻は臨月で

妻は長女にかぶさり、私は長男にかぶさった。

その上にタンスが落ちてきて

腕ではねのけたのは覚えているが

今思えば

到底腕で動くようなタンスでない。

家具が散乱しガラスの破片があちこち

部屋から出るのにひと苦労。

この時の教訓は

「枕元にスリッパ」である。

皆を玄関まで誘導し

向かいにいる両親の安全を確認して

毛布やら布団やらまずは防寒対策。

皆恐怖で家に入れない。

当分車中泊だな。

町中にガスのにおいが充満していたので

近所にガス栓を閉めるように捉し、

不在宅のガス栓を閉めて回った。

タバコを吸っている人を注意した。

二日目か三日目か覚えていないが

長田で火が出た。

停電の復旧で即送電したため

漏電が原因で出火したらしい。

この教訓は後の大地震に活かされている。

近所の壊れた民家に閉じ込められているのか

「たすけて!」の声が聞こえる。

崩れそうな建物に自衛隊が来るまで手が出せない。

皆見守り励ますしかない。

2・3日たっただろうか、声がしなくなった。

自衛隊が来た頃には遺体で発見された。

*

2歳半の息子の夜泣きがおさまらず

顔がパンパンに張れている。

おたふくかな?

神鋼病院の夜間外来に行ったが

緊急ではなさそうなので

もう一度明日来なさいという事でした。

で、翌日出向くと

たまたま昨日の先生が居て顔色が変わった。

昨日の腫れ具合が一段とひどくなっていた。

慌てて先生がCT、生検と動き出した。

後で呼び出され”宣告”を受けたのである。

リンパ腫です。

しかも質の悪いバーキドリンパ腫です。

生存率は40%ぐらいです。

こういう時先生は事実だけを淡々と伝え

励ましの言葉などはない。

奥さんは臨月なので

誘発剤を使って出産し、その後に告知しましょう。

全身の力が抜けた。

「何でうちの子が・・」

あらゆる不幸な思いとその行く末が

頭の中を支配した。

泣いた泣きつくした。

泣きつくすと不思議なもので冷静になり

何かをせずにはいられなくなる。

それから思った事、

「わからない」「知らない」が一番無力である事。

今後の治療方針に

インフォームドコンセントと言っても

先生に何を聞いたらいいのかわからないので

先生と対等に話するためにはこちらも知識武装が必要だな。

用語一つわからない医学書、意味も分からないけど

とにかく物理的に読みあさった。

眉つばの怪しい情報も徹底的に調べ上げた。

「癌」とは何ぞや

「リンパ腫」とは何ぞや・・。

震災で治療設備が充実してないとのことで

大学病院の血液チームに移ることになった。

それから2年間妻と息子の入院生活が始まる。

この年、サリン事件がありましたね。

私にとっては記憶に薄い。

生まれた子は実家に預け、

お乳を搾って凍らして実家に持って行った。

現在息子は28歳で私より健在な青年となってます。

ただ幼少期に入院で人との関わりが乏しく

人付き合いが苦手なようで、まだ一人者です。

誰かよい人いませんかねぇ。

このエピソードだけで一冊の本が書けるほど

波乱の時期でした。

東北の震災もそうですが、

「忘れてはいけない」な、きれい事ではなく

「忘れられない」トラウマなのです。

しかしこの経験が私を医学の道に興味を持たせ、

アナトミーやケミカルの知識が

今の革(レザー)メンテナンスやしみ抜きの化学に

活かされているのであります。

今の姿は目指した訳ではなく

何かにレールが敷かれていたように

努力し続けていれば今日がある。

今ある事を受け止め必死に努力する。

何を努力するのかを考える。

努力に無駄はない

「努力は裏切らん」

前に道が見えなくても

一歩二歩前に進む事で

後ろには立派な道が足跡と共に出来ているものです。

「絶望」なんて努力しない人の逃げ道で

ショートスパンで結果を見ようとするから

「努力してもかなわないから絶望」

と言うロジックになる。

今コロナ禍でみんな大変。

「絶望」に襲われそうな人たち沢山いると思いますが

人のせいにするのは簡単。

これも逃げ道だと思います。

「努力」した者にのみ結果が出ると思います。

究極商売と言うしがらみを出来る限り削ぎ落し

「生きる」という原点に返れば

少なくとも今より道は開けるかもしれません。

私は「がんばれ」なんて言葉嫌いで

言われなくても

みんな頑張ってるわけで

「絶望」しないために

「負けるなよ」

生意気なこと書いてすみません。

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