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  2. 皮革の接客心得

おもてなし

お客様の立場に立った心遣い

 お客様にとって大事な我が子ともいえる”お召し物”をお預かりするのですから、まずは”安心”という「おもてなし」を提供しなければなりません。”お召し物”にとって天敵ともいえるハサミ・ボールペン・ホッチキスなどカウンターの上から排除します。デリケートな素材は傷がつきやすく細心の注意が必要です。

 特に皮革レザー製品の場合、お預かりの品を検品する前にまずカウンターにマットを敷き、靴(シューズ・パンプス・ブーツetc)の場合はトレーを置きます。。油脂や水分は皮革レザーにとって大事な栄養ですが、カウンター上で不注意な取扱いによって付いた油脂や水分は汚れを革に導きシミとなります。爪は品物にも傷がつかぬようあらかじめ切っておきます。そして手垢がつかぬよう手袋をはめて診断に入ります。

 また対応の際の身だしなみは大切ですが、香水やヘアスプレーなど香料のきついものは避けています。日本人は無香を好む民族なので他人のにおいには敏感で気になるものです。特に皮革製品は呼吸していますからそういった香料は吸い込まれやすいので配慮が必要です。「おもてなし」の第一歩は「心遣い」なのです。

耳を傾ける


お客様の要望を理解する。

 受け入れの準備が出来ましたらいよいよ問診です。お客様の声に耳を傾け、何を求めていらっしゃるのか、どうして欲しいのかの要望を理解することが大切です。安易な問診でお客様の要求とは違った思い込みの作業をすると、いくら心を込めて作業をしてもお客様は失望し、信頼を失ってしまいます。自社処理をされるお店によくありがちなことですが、つい自社の得意とする技術をアピールし、お客様の要望に応えていないことに気が付いていないことがあります。技術の押し売りはお客様の満足ではなく自己満足なのです。「おもてなし」とはお客様の要望をよく「聞く」ことなのです。

 要望を大別すると、クリーニング/お手入れ/しみ取り/補修/修理となります。

「クリーニング」は文字通り洗うことです。洗いには有機溶剤を使ったドライクリーニングと水を使った水洗がありますが、いずれも革の風合いが変わったり型崩れを起こしやすく、高度な技術と経験が必要となってきます。「お手入れ」はクリーニングのように全体を液に浸けて洗うのではなく、クリーナーなどで要所を漱いだりふき取りをします。皮革レザーの場合は栄養分を補って磨きます。これは型崩れを起こしませんので一番安全な処置と言えます。

「しみ取り」はクリーナーや薬品でシミの除去または漂白をします。一般衣料品の場合は使った薬品を濯げるのですが皮革レザーは濯げません。シミや汚れは革の内部に取り込んでいる場合が多く、取れないものと思った方がよいでしょう。強引なシミ取りは塗装表面を傷め、組織を硬化させてしまいます。

「補修」はこの項目では皮革製品の補修について述べます。「補修」は傷のついた部分や擦れて剥げた部分を樹脂やパテで表面を補正し色補正を行なったり、取れないシミ汚れを上から隠ぺいしたりします。色補正や隠ぺいは、調色・塗り・仕上げなど革素材によってすべて違いますからこれまた高度な技術が必要になってきます。この分野が一番技術力の差が分かりやすく、ビジュアル(見た目)の品質が一番評価される部分ですが、色補修や全体の色変えはいくら完成度が高くてもブランドとしての価値はなくなってしまいます。お客様においては「見た目重視」か「ブランド重視」かを迫られることになります。「修理」は傷ついたり痛んだ部品を補強または交換したりします。ブランドロゴの入った部品は供給されていませんので一般品の転用になります。やはりブランド価値はなくなります。

観察をする


リスクを予測することで危険を回避する。

 お客様の要望に対して、問題の箇所がどういう状態なのかをよく”診る”必要があります。そのためには過去現在の情報、つまり「原因」と「現状態」から、このままだと”どうなるのか”を推測しお客様に説明します。そして”どう処置する”のが最良の方法かを提案し、良い状態を実現していくことがメンテナンスという私たちの仕事なのです。

 状態の悪さによってはもはやメンテナンスの領域を超えて施術となるわけですが、万事が上手くいくわけではなく、リスクが伴うことがあります。その場合、そのリスクがどのようなものかを正しく「予測」しリスク説明をする事も大事なことです。お客様が納得されたうえで次の作業に入るのでます。

 特に皮革レザーは革という生体の特性上常にコストや効率化を優先しリスクに重きを置かない作業は、やがて取り返しのつかない事態に発展し、お客様の信頼を失うことになります。そして何より哀しいのは「革」が被害者であることです。このリスクの「予測」には専門的な知識に加え、長年の経験と勘が必要となってきます。「おもてなし」とは安全な作業を行うために現状をしっかり「診る」ことで事なのです。

 

ひらめく


愛情をこめて提案する

 遠くからお越しのお客様や各所で断られた依頼がたとえ不可能なものであっても、最後の望みで当店を頼ってくれたお客様の心情を察すると我が子同然のお召し物を無下に断ることは出来ません。まずはお預かりし充分にインフォームドコンセントを行い可能性を思考し最善を模索します。お客様も私どもも体を張って挑みます。これを「ビスポーク」と言います。

 皮革レザーの場合、お客様の要望を叶えてさしあげるための手段としていくつか引出しがあるわけですが、お手入れはともかく補修や修理となるとやはり元生体の特質上リスクを伴い何かを犠牲にしなければならない場合があります。例えば風合い・艶・色目の変化などお客様にリスクを伝えた上でどのリスクなら妥協できるのか、いかにリスクを回避するか、どうすればお客様に喜んで頂けるのかを模索し最良の処置方法をいくつか提案させていただきます。  「価値観・美意識」といった「感性」と豊富な「経験や知識」を駆使して革に優しいベストな手法を構築していきます。そして革に対する「愛情」がその手法に魂を吹き込んでいきます。「愛情のこもった提案」こそが「おもてなし」なのです。